2016年10月22日土曜日

かわいそうなカルダス

いつも高級ヘッドホンの話ばかりではつまらないので、くだらない庶民的なネタも紹介します。

ベイヤーダイナミックT5p 2nd Generation用に作りました

米国Cardas Audio製のイヤホンを再利用して、ヘッドホン用の交換ケーブルを作ってみました。

結果かなり良いサウンドが得られたので、こういう使い道も面白いかもと改めて感心しました。



カルダス

カルダス・オーディオというのは米国のメーカーで、主にスピーカーケーブルやコネクタ端子などのアクセサリー系で古くからある老舗です。最近では高級ヘッドホン用の交換アップグレードケーブルで一躍有名になりました。

以前何度か紹介したことがありますが、ヘッドホンケーブルは非常に高価ながら高音質だということで、世界中のヘッドホンマニアから絶賛されています。日本でも代理店が取り扱っているので、知名度もそこそこあるようです。

アップグレードケーブルの代名詞「Cardas Clear」

たとえばゼンハイザーHD800用のアップグレードケーブルが1mで85,300円とか、ヘッドホン本体に迫る値段です。一昔前であれば目が飛び出るような価格設定でしたが、最近ではヘッドホンブームに後押しされて、クリスタルケーブルとか、もっととんでもない価格のケーブルメーカーが店頭でも売られるようになってきたので、その中でカルダスは、実力派の中堅といった程度の位置付けになってしまったようです。

見た目のショボさのわりに音が良い、「Cardas Clear Light」

ケーブルの音質については個人差があるのでなんとも言えませんが、私自身は以前カルダスのHD800用ケーブルを借りて試してみた際に、最上位の「Clear」ではなく、その下の「Clear Light」というケーブル(それでも1mで6万円くらい)が素晴らしいと思いました。純正ケーブルと同じ系統のサウンドを維持しながら、さらに質感豊かでディテールが聴きやすくなった感じです。値段が高い方の「Clear」はちょっと音が太くなりすぎました。

ベイヤーダイナミックも、以前T1 90周年記念モデルというやつでCardas Clear Lightを正式採用したことがあったのですが、それもヘッドホンとケーブルの相乗効果が素晴らしかったです。

(T1 90周年モデルのレビュー → http://sandalaudio.blogspot.com/2016/05/t1-90th-anniversary-edition.html

(初代T1のケーブル改造 → http://sandalaudio.blogspot.com/2016/05/beyerdynamic-t1.html

カルダス EM5813

ケーブルに関しては知名度が高いカルダスなのですが、実はイヤホンも作っていることはあまり知られていません。

EM5813

A8

同社いわくイヤホンではなく「Ear Speaker」と呼んでいるそうです。「EM5813」と「A8」という二種類を販売しており、価格はそれぞれ約6万円と5万円ということで、高級ケーブルの値段を考えると、わりと良心的な価格だなと思います。

どちらのイヤホンも、壺みたいな形のハウジングにダイナミックドライバが1基搭載されているシンプルなデザインで、ケーブルは着脱できない直付けで(A8の方は中間で分離できるようになってます)、イヤーチップも通常のシリコンタイプです。一見ゼンハイザーのCXシリーズとかと似ているのですが、実はもう一回り大きく、ゴロッとした手触りです。

EM5813が金属製ハウジングで、安価なA8はABSプラスチックだそうです。5813の金属ハウジングはかなり光沢がありピカピカ反射するので、ネットでレビュー記事や画像なんかを探すと、高確率でキモいオッサンの顔が写り込んでいます。

ちなみに公式サイトから、Youtubeにて広報動画があって、内部の再現CGなんかけっこう気合が入ってるので構造がわかりやすいです。


動画を見るとわかりますが、中身はほんとにシンプルで、まさに壺の中にドライバが置いてあるだけみたいな形状です。

イヤホン

ところで、今回このカルダス製イヤホンを真面目に紹介しようと思ったわけではなく、実は友人が、このイヤホンのケーブルをヘッドホン用ケーブルに再利用出来ないかと話を持ちかけてきたわけです。

気持ち悪いパッケージ

EM5813は、ケーブルに6万円のCardas Clear Lightと同じものを使っていると書いてあるので、つまりそれだけでイヤホン本体価格と同じくらいの値打ちがあると言えるかもしれません。

ともかく、このEM5813というイヤホンは、サウンドに関してはかなり独特で、なんというか、「シロウトが手を出してはいけない、ヤバいやつ」みたいな風に言われています。

ネットレビューとかの評価もそこそこ高いので、音が悪いというわけではないのでしょうけど、ちょっと個性的すぎて、買ったはいいけど、しっくりこないので手放す人が多いのか、ネットオークションなどでたまに安価で手に入ります。

今回も、友人が私に連絡をしてきて、「カルダスのイヤホンを中古で1万円ちょいで手に入れたから、バラしてベイヤーダイナミックT5p 2nd Generation用ケーブルに仕上げてくれ」と頼まれました。

さすがに、まだ完動品のイヤホンをバラすのはメーカーに失礼というか、かわいそうなので、とりあえず友人には、せっかくイヤホンとして買ったのだから、とりあえずイヤホンを聴いて、様子を見てからで良いんじゃないかと提案しました。

それから1ヶ月ほど経って、また連絡があり、「やっぱりバラしてくれ」と再度頼まれたので、そこまで言うならと了解しました。

このEM5813イヤホンを受け取ってから、折角の期会なのでちょっと使ってみることにしましたが、やっぱり個性的なサウンドです。過去これまで何度試聴したことがあるのですが、毎回使うたびに「そうそうこんな感じだった」と笑ってしまいます。

ダイナミックドライバなので、エージングが必要だとよく言われていますが、これまで試聴してきたものの中にはかなり年季の入ったやつもあるのに、全体的な傾向はあまり変わりません。

さすがメーカー自身が「イヤースピーカー」と命名しているだけあって、一般的なクリアで高解像なイヤホンとは対極的なチューニングで、まさにドライバが金属の壺の中に入っているようなサウンドです。

これは百聞は一見(一聴?)に如かずというか、聴いてみないと分からない世界だと思います。なんとなくAudioquest NighthawkとかPSBなんかに通ずるものがあるので、欧米でスピーカー的なサウンドを求めているとこうなるのかな、なんて思ったりします。延長線上で、より一般的なイヤホン・ヘッドホンらしく寄せているのが、B&Wシリーズ(C5、P5とか)とか、KEF m500なんかも連想するので、やはりスピーカー的というのは、その傾向はあるのでしょう。

装着感もあまり人間工学的ではないですし、かなり大振りで重量級ですので、興味がある人はまず試着試聴してみることが必須です。

ケーブル

そんなわけでケーブルの部品取りに使う依頼を受けたのですが、作業自体は簡単でした。さすがカルダスだけあって、布巻きのしっかりとしたケーブルを手にとって触ってみるだけで、なんとなく高級そうな予感がします。

以前、既製品のカルダスClear Lightケーブルや、ベイヤーダイナミックT1 90周年モデルに付属していたケーブルなどでは、左右に別れた先からは線材がかなり細くて、曲げると癖がつきやすく、実用上で難ありだったのですが、今回のケーブルは外皮が強固になっており、断線しそうな心配は感じませんでした。

プレイヤー側の3.5mmコネクタもL字でブランドロゴがあしらわれた特注品です。途中にシリアルナンバーとバーコードが入った透明のスリーブが通してあります。

ひとつ気になったのは、3.5mmコネクタの金メッキがとてもすり減っており、地金の銀色がうっすらと見えています。今まで、身の回りにある、かなり使い込んだイヤホンとかでもここまですり減っているのは見たことがないので、そもそも元からメッキが薄かったのか、前のオーナーがとんでもなく酷使していたのか不明です。

コネクタも線材は布巻きで高級そうです

左右の分岐点なんかもけっこう手が込んでいます


申し訳なく思いますが・・・

カルダスといえば高級ケーブルで有名なわけで、今回のイヤホンも、面倒なリッツ線でした。とはいえ線材自体は太くて扱いやすいので、一般的なイヤホンよりも作業は楽です。

かなり太めの、補強入りリッツ線です

リッツ線というのは、銅色の線一本一本に目に見えない薄い膜がコーティングしてあり、それぞれが電気的に導通していないという高級線材です。よく高速の微小信号を扱う時に使います。容量負荷が楽になるので、レコード針の弱小信号とかの配線にも使われています。そのままではハンダ付け出来ないので、自作ユーザーには嫌われています。

リッツ線専用の溶剤が無い場合は、外皮を焦がすか、サンドペーパーかカッターなどで剥がす作業が面倒です。

公式サイトから、線材はこんな感じです

あと、線材の中心にナイロン糸の補強が入っているので、線材を撚り纏める前にそれをカットしておかないとハンダで焦げるので、それくらいの注意点のみです。リッツはハンダが乗るまで時間がかかりますが、外皮がさすが高級だけあってテフロンなので、溶けたりしません。慣れていればサッと仕上がります。

左右の目印はスミチューブで

いい感じに完成しました

純正ケーブルはこんな太さです

今回選んだコネクタは、これでギリギリでした

今回はベイヤーダイナミックT1やT5pの「2nd Generation」用交換ケーブルということで頼まれたのですが、これらは通常の3.5mm端子x2なのですが、スリーブ部分が極細じゃないとハウジング内に挿入出来ないというめんどくさい設計なので、ちゃんとフィットするコネクタを探す必要があります。

大抵のコネクタではかなりきわどいので、可能であればヘッドホン持参でテストするのが最良です。私の友人の場合はネットオークションでよさげなコネクタを4種類ほど購入して、その中でフィットするやつを持参しました。

謎の2.5mmバランスコネクタ

ちなみに余談ですが、今回このカルダス改造品とは別に、T5p 2nd Generation純正ケーブルの方も、オーナーの意向で、AK用2.5mmバランスコネクタに改造しました。

このベイヤー純正ケーブルで2.5mmバランスというと、私が知る限りではAK T1pに付属しているものしか手に入らないため、今回はそれを真似したような感じです。

どこで手に入れてきたのか知りませんが、ちょうどこのベイヤー用ピッタリに作られた2.5mmバランスコネクタというのが販売されているらしく(しかもスリーブはカーボン)、友人がそれを持参してくれました。

このコネクタは、設計がかなり貧弱で、ケーブルクランプとかの補強が一切無いデザインだったので、結線が済んだら中身をエポキシ接着剤で固めて、スミチューブで曲げ強度を確保する必要がありました。

それと、このタイプ(T1、T5p 2nd Generation用)のベイヤーダイナミック純正ケーブルは、太い布巻きスリーブの外見とは裏腹に、内部の線材は非常に細く、むしろ今回のカルダスケーブルよりも作業がめんどくさいタイプだったので、2.5mmコネクタにハンダ付けできる細さなのはありがたいですが、想像以上にてこずりました。

サウンドとか

ケーブルのみ第二の人生を送ります

出来上がってから、テストも兼ねて長いこと試聴してみましたが、やはりこのカルダスケーブルは、メーカー自身が言うだけあって、Cardas Clear Lightにとても良く似ている、非常に良いサウンドです。

ケーブルの音質について真面目に語るのも虚しいので、簡単な感想のみですが(世の中には、コンセント電源ケーブルとかについても延々と音質レポートを書ける人もいるので、いつも感心します)、このカルダス製ケーブルは、Clear Light同様に、一般的なOFC純正ケーブルからあまり離れず、周波数特性とかも変わったりはしないのに、サウンドに繊細さと奥行きが増すという、理想的な「アップグレード」です。

とくにT5p 2nd Generationの場合、ヘッドホン本体がすでにけっこうシャープでアタック感が強い傾向なので、たとえば銀メッキ線とかでよりキラキラした感じになると、耳障りで長時間の使用が厳しくなってきます(T1 2nd Generationには合うかもしれません)。

その点カルダスの場合、純正ケーブルと今回の改造ケーブルを交互に聴き比べてみても、なにか目立った特徴を探そうとしても、これといって見つからないのですが、それでいて中域の音色がより澄んで、味わい深くなります。中域の量感が増すとか、あからさまに解像感が高くなるとかでもなく、普段通りなのに、より楽しみが増すというのは、とても良い傾向です。一方、純正のサウンドそのものに不満がある場合では、このケーブルに交換しても、具体的にチューニングそのものが改善するわけではないので、その場合はもっと別のケーブルの方が良いと思います。

今回面白かったのは、所有者がAK380・Fiio X7(AM3)ユーザーなので、このカルダスケーブル(3.5mmステレオ)と、改造した純正ケーブル(2.5mmバランス)とで比較してみたところ、カルダスの方が、非バランスというデメリットがありながらも音が良いと言ってました。私も同感です。

なにはともあれ、ヘッドホンのケーブルは相性が一番重要なわけですが、気に入ったものが見つからない場合には、このようにイヤホンのケーブルを再利用するとかも、意外と悪くないな、なんて思いました。あと、物は試しで、使っていないRCAラインケーブルとか、RCA→3.5mmケーブルとかも、案外改造素材として面白かったりします。